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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(あ)2091号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人李起栄外二四名の弁護人諌山博の上告趣意第一点について。

所論は単なる訴訟法違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお所論原判決の判断は正当として当審においてもこれを是認できる。)

同第二点について。

所論は判例違反をいう点もあるが、原判決の判断は所論引用の判例に相反するものとは認められず、その余の論旨は事実誤認、単なる法令違反の主張であって、同四〇五条の上告理由に当らない。(なお原判決が、所論のように二百名からの集団のなかに、最初から、あるいはその中途で参加していた者が、その集団のなかの誰かの犯した刑事事件一切について刑事責任を負わなければならないとしているものでないことは、原判決判文上明らかである。そして原判決は、その挙示の証拠により、本件集団に参加した各被告人は、右集団が暴行行為に及び、また場合によっては傷害の結果を発生し、あるいは住居侵入器物損壊等の事態を見るに至るかも知れないことをも予想していたものと認めるのが相当であると認定した上で、その予想の範囲内に属するものについて、被告人らに共謀による共同正犯としての責任ありと判断したものであって、右判断は正当である。)

同第三点および第八点について。

所論は単なる法令違反の主張であって、同四〇五条の上告理由に当らない。(暴力行為等処罰に関する法律一条一項の罪を犯すことを共謀した者の中で自らは何らの実行行為をも分担しなかった者に対しては、刑法六〇条の適用により、共同して犯行をした数人の行為につき共謀共同正犯の責任を負わせることが相当である。〔昭和七年一一月一四日大判、集一一巻一六一一頁、同八年一一月二〇日大判、集一二巻二〇五四頁、同一三年一〇月二七日大判、集一七巻七八三頁、同二九年(あ)第一〇五六号、同三三年五月二八日大法廷判決、刑集一二巻八号一七一八頁参照〕また右法律一条一項の「数人共同して」の「数人」には「多衆」をも含むと解するのが相当であって、多衆が共同しその威力を示して同条所定の罪を犯した場合には、数人共同し且つ多衆の威力を示して同条の罪を犯したものというべきであるから、原判決の判断は正当である。なお、本件起訴状には公訴事実として、多衆が共同しその威力を示して脅迫および器物損壊をしたと認めらるべき具体的事実を表示してあるのであるから、訴因変更の必要はなく、また記録上本件訴訟の経過において、この点において被告人らの防御権が侵害されたものとは認められない。)

同第四点について。

所論の中判例違反をいう点は、引用の判例は本件に適切でなく、論旨は採るを得ない。(引用の判例は、不法監禁の手段としての単純な暴行、脅迫に関するものであって、本件のごとく不法監禁の手段たる暴行、脅迫の行為が、暴力行為等処罰に関する法律一条の罪に該当する行為または刑法二二三条の強要罪に当る行為に該当する事案に関するものではない。)その余の論旨は単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第五点について。

所論は単なる法令違反の主張であって、同四〇五条の上告理由に当らない。(爆発物取締罰則にいわゆる爆発物とは、理化学上の爆発現象を惹起するような不安定な平衡状態において、薬品その他の資材が結合せる物体であって、その爆発作用そのものによって公共の安全をみだし、また人の身体財産を害するに足る破壊力を有するものと解するを相当とし、右理化学上の爆発現象というのは、通常、ある物体系の体積が物理的に急激迅速に増大する現象すなわち物理的爆発竝びに物質の分解または化合が極めて急速に進行し、かかる化学変化に伴って一時に多量の反応熱および多数のガス分子を発生して体積の急速な増大を来たす現象すなわち化学的爆発を指すものであるとすることは当裁判所大法廷の判例とするところである〔昭和二九年(あ)第三九五六号、同三一年六月二七日大法廷判決、刑集一〇巻六号九二一頁〕。そして、原審が認定したところによれば、本件ラムネ弾はラムネ瓶におよそ三四瓦位のカーバイドを詰めたものであって、これに水を数十瓦注入し傾斜あるいは倒立させて直ちに投ずるときは、カーバイドと水の反応により急激多量にアセチレンガスを発生し、且つその反応熱等により右ガスの膨張を伴い、一方前記傾斜等の際瓶内のラムネ玉が瓶の口を密閉するので、瓶内で発生を続けるガスの圧力が急速に高まり、ついに容器である瓶の外壁を破って急激にその体積を増大し、これがため瓶の破片を飛散させる現象を生じ、右経過におけるカーバイドと水の反応によるアセチレンガスの発生は化学反応であってもそれは化学上の爆発というものではないが、右のように発生したアセチレンガスが密閉された瓶内で急速に充満増加するため高圧を生じそれが瓶の耐圧限界を越え前記のごとくこれを破裂させるに至る現象は物理的爆発ということができ、しかも瓶内のカーバイドに注入するときは容易にガスを発生し前記爆発現象を示すものであるから、それは爆発現象を惹起しうるような不安定な平衡状態において薬品その他の資材が結合されている物体に該当するというのであり、またこれに、水数十瓦を注入し傾斜または倒立させた後五秒乃至十数秒で爆発し、原判決説示のような種々の危険が予想されるというのであって、右原審の認定はその挙示の証拠によりこれを是認できる。しからば、本件ラムネ弾はその爆発作用そのものによって公共の安全をみだしまたは人の身体財産を害するに足る破壊力を有するものと認めることができるから、原審がこれを爆発物取締罰則にいわゆる爆発物に該当すると判示したことは正当である。)

同第六点について。

所論の中判例違反をいう点は、引用の判例は本件に適切でなく、その余の論旨は単なる訴訟法違反の主張であって同四〇五条の上告理由に当らない。(多数の被告人に対する被告事件を併合審理して判決を言渡し、これについて一通の判決書が作成されていても、判決は各被告人毎に成立しているのであって、その理由の不備またはくいちがいの有無は各被告人毎に判断さるべく、一の被告人に対する判決の理由不備または理由のくいちがいが当然に他の被告人らに対する判決破棄の理由となるべきものではないこというまでもないから、原判決のこの点に関する判示は正当である。)

同第七点について。

所論は単なる訴訟法違反の主張であって、同四〇五条の上告理由に当らない。(仮に所論書類を記録に編綴したことが違法であるとしても、右は判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続上の違法とは認められない。)

同第九点について。

所論は単なる法令違反の主張であって、同四〇五条の上告理由に当らない。(所論各証人はいずれも被告人金基昊と同鄭宗鉄との共犯の事実に関する証人であるから、右証人に支給した日当等は共犯の訴訟費用として刑訴一八二条により共犯者に連帯して負担せしめうるものであり、被告人鄭宗鉄に対する判決において同人の負担とされていても、本件において被告人金基昊に対してこれを負担させる旨言渡すことは違法ではない。執行の面においては、被告人鄭宗鉄から既に徴収した分は、被告人金基昊から重ねて徴収することのできないことは勿論である。)

被告人李起栄外二四名の弁護人島田正雄、同柴田睦夫の上告趣意第一点について。

所論は違憲をいうが、その実質は単なる法令違反の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(所論の採るを得ないことは前記弁護人諌山博の上告趣意第二点、第三点について説示したとおりである。)

同第二点について。

所論は単なる法令違反の主張であって、同四〇五条の上告理由に当らない。(所論ラムネ弾が、爆発物取締罰則の爆発物でないとの所論のとることを得ないことは、前記弁護人諌山博の上告趣意第五点について説示したとおりである。)

被告人李金水の上告趣意について。

所論は事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人梁在義の上告趣意について。

所論は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(記録を調べても、所論金天得の検察官に対する供述の任意性を疑うに足る点は、何ら認められない。)

被告人陳祥鳳の弁護人今長高雄の上告趣意第一点について。

所論は事実誤認を前提とする判例違反の主張であって、前提を欠き採るを得ない。

同第二点、第三点について。

所論は違憲をいうが、その実質は単なる訴訟法違反、量刑不当の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(所論のような場合が憲法三六条の残虐な刑罰に当らないことは当裁判所の屡々判示しているところである。)

被告人陳祥鳳の上告趣意について。

所論は違憲をいうが、原判決のいかなる部分が憲法のいかなる条規に違反するか具体的に示さないから上告理由としては不適法であり、論旨は結局単なる訴訟法違反、事実誤認の主張をいでないものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人金基昊の上告趣意について。

所論は事実誤認、単なる訴訟法違反の主張をいでないものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(記録を調べても、所論被告人その他関係人の供述が拷問、脅迫によってなされたものと疑うべき点は何ら認められない。)

記録を調べても所論の点につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)

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